走ったら、気づかれたと相手にバレてしまう。

小走りなら不自然じゃないし、歩いたら監視カメラに顔と服装が映ってしまう。

ここまで計算していたことに、衝撃を覚える。


「もしかしてあの行為も見られた?」

「いや、それはない。監視カメラはあの近くに存在しないからね。見られてないよ」

「アルマくんがそう言うなら、そうだね」

「……おしゃべりはこれくらいにして、着替えてきなよ」

「うん」


彼に肯定の反応を示した。



囚人服を抱えたまま、奥にあるベッドのカーテンを閉めた。

アルマとは反対方向を向き、ベッドに腰を下ろす。

海軍が着ていそうな白い看守服を脱ぎ始める。


一応ポケットに入っていた身分証明の黄色いカードをポケットから出し、ベッドに置いた。

オレンジ色の囚人服を上下とも身につけ、カードを後ろのポケットに仕舞う。

囚人服に書いてある番号は、「432678」。

なんだか現実味がなく、お腹がストレスでモヤモヤする。

吐きそう。



カーテンを広げてアルマのいる方へ向かう。

回る丸椅子に腰を下ろしていた。


彼は分厚く付箋だらけの青色のファイルを広げて、中身を読んでいる。

正面へ歩み寄ったのに、構わず読み続けていた。



「何読んでるの?」

好奇心のまま隣へ来て覗いてみようとしたら、閉じられてしまった。


「難しい論文。アンタには関係ない内容」

彼は呆れ顔のまま、ファイルを机の上に置いた。

論文と言われて、読む気は無くなってしまう。



文章が多いものは読みたくないし、僕は記憶力は人一倍良い方だが頭の出来は良くない。

たとえ読めたとしても、理解できるとは考えにくい。



僕は扉に手をかけ、ここから出ようとした。

すると彼も立ち上がり、僕の後ろに続いて歩みを進める。



後ろから感じる強い殺気に、背中に汗が(ほとばし)った。

振り返ることはせず、彼が近い距離、接近してくるので怯えてしまう。

後ろ、怖くて見られない。

なぜか尻も触ってきているし、これってセクハラの一種か?

それとも彼なりの愛情表現?


直球すぎて、足が棒のように固まり動けない。


「ねぇ、扉開けないの?」
「え?」

何事もなかったように尻から手が離れ、殺意も消えた。

僕は何も考えることなく、医務室から外へ出た。

廊下には、相変わらず誰もいない。