拳を握りしめて、椅子に座り直せばアルマがこちらへやってきた。


「よし、できた」


消毒薬と包帯とハサミ。

塗り薬と医療用テープを持ってきた彼は、丁寧に胸の傷の手当てをしてくれた。

いや包帯を巻く動作や塗り薬を塗るのとかは普通だったのに、消毒液を塗る時が一番きつかった。


傷が染みて痛かったので苦い顔をしたら、彼が調子に乗って何度も傷口に当ててくる。

目から涙が流れてしまう。



彼はその苦しそうな顔を見てクツクツと楽しそうに笑っていたので、屈辱でしかなかった。

僕は顔を赤くして怒鳴り散らす。

アルマは反省していないのか、さらに笑い声を高らかに上げる。


「なんであんなに笑うんだよ!こっちは痛かったんだぞ!」

「いや、面白くてつい」

「面白がるなよ!」

「ふふ……そういうところが面白いな」



彼は目を閉じて口角をあげ、にこりと微笑む。

その表情を見て、つい顔を背けてしまう。


頭のいい奴は、何を考えているのかよく分からないな。


「あっ、そうだ」


彼がベッドの下にある狭いスペースから、囚人服を取り出した。

オレンジ色に、六桁の番号が書いてある。

それを僕の目の前に差し出した。

無言で受け取る。


これがあれば自分が看守だとバレないし、この船から逃げ切ることができるはず。

アルマなりの配慮であり、捕まらないようにするための手段だ。

しかしなぜこの場所に囚人服の予備があるのを知っているのだろうか。

疑問に感じてしまったので、青ざめた顔で恐る恐る尋ねる。

彼は表情を変えることなく、遠くを眺めた。


「看守を説得させて場所を暴いたまでだ。怪我を知ったのは触ったから。俺が廊下を小走りしていた理由は、囚人服を早くとってアンタに着せたかったから。これ以上、本当のことを知る必要はない」

「それってどういう……」

「言葉通りの意味だ。知る必要はない。でもいずれわかるだろう。監視室に行けば」

「!?まさか監視カメラ……」



目を開いて、彼の綺麗で整った横顔を眺める。

開いた口が塞がらないほど、驚愕してしまった。


今まで気づかなかった僕自身を呪いたい。

確かにあの廊下には、監視カメラが設置されている。

しかも動いていた気がする。

小走りだった理由はそれか。

囚人が見ている可能性が高いから、気づかれないようにしたのか。