「ダニエル、行くわよ」

「えっ、ちょっと待てよ!白人の言うことを聞くのか?」

「いいから、彼を怒らせちゃダメよ。めんどくさいことになるわ」


フィルはダニエルの右手を握りしめて、足を引きずったまま来た方向の廊下を進んでいく。


これで残るは中にいる男一人だけ。

あとは彼にお願いしておけばオッケー。


この場所で待機していれば、あの男も医務室から出てくるだろう。



アルマが医務室へ入り、しばらく経った。

もう一人の大柄な囚人は、引き戸を開け走って他の二人が向かった方へ走る。

こちらに来なかったのは幸いだ。


「来なよ。もう誰もいない」

「う、うん……」


曖昧に頷いた。



なんの話をしていたのか気になったので、試しに疑心暗鬼のまま尋ねる。

しかし「世間話してたんだ」と澄まし顔で言われ、詳細を明かすことはなかった。



担いでいたリークという男は、簡単に目を覚さないだろう。

だがもしこちらにまた襲いかかってきたらどうしようと考えれば、脚が震えて一歩進むのもツラく感じてしまう。


「大丈夫。俺がついてる」

「そうだね」



歩くのが遅かったらしく、彼に肩を担がれおんぶされてしまった。

突然の出来事に目を見開いて暴れてみたが、彼に怒られ悲しい気持ちになる。

彼曰く「くっついていれば、どうな悪党でも怖くない。俺が守ってやる」とのこと。

僕は「そういうことは女の子にいいなよ」と、頬を膨らませながら返すとアルマは無言を貫いていた。

頼もしい理想的な男だ。


それに彼の背中は暖かくて心地いいし、落ち着く。


子供の頃と同じだ。

他の子たちはそう思うのだろうか。





バクバクと脈打つ激しい心臓音が聞こえて、こちらも顔を赤らめてしまう。

僕たちは両思いだったのか。