「そんなわけない!怖いこと言うなよ」

僕は怒鳴り散らした。



母さんは僕のことを無視してたけど、飯を作ってくれたし風呂も洗ってくれたし。

そんなわけないだろ!



「嘘だな。さぞかし嬉しかったんだろ?愛されてなかったんだから」

「うるせぇ!」


かっと怒りが込み上げて、彼の頬をグーで殴った。

なんの受け身も取らなかったアルマは、床に倒れて尻餅をつく。

頬には赤く腫れた痕がついていて、口から血が垂れている。

歯が折れたようだ。


我に返って、自分が起こした過ちを反省した。

アルマは恐ろしい形相で睨みつけてくる。


「ごめん。ついかっとなって」

「慰めただけなのに殴られるとはね。ふふ……アンタ、囚人の資格あるかもね」

「そんなわけない。僕は……人なんて殺せないんだ。あんなのはま…!」

「まだそんな常識を唱えているんだ?いい加減認めなよ」

(また、声がした)



ずっと気にせずに過ごしていたが、なぜかこの時だけ耳を傾けてしまった。



男なのか女なのかはわからないけど、あの事件以来人に危害を加えたり過去のことを思い出したりすると聞こえてくるのだ。

さっきもずっとアルマを殺せという声が聞こえてきていたが、あまり気にしていなかった。

母さんが死んで嬉しかったと聞いてきたのも、多分「アイツ」だ。



「ま……?何?」

「いや、なんでもないんだ。気にしないで」



額に汗をかいて、目を逸らした。



「まぐれだよ」と言おうとしたが、彼にこれ以上検索されるのはよろしくない。

精神が崩壊しそうだし。


アイツに比べればアルマはまだ優しいし、僕のことを第一に考えている気がする。

ナイフを向けてきたけど、脅されているだけとしか思えなかった。

驚くこともない。

恐怖はあったけど。