「はい、これ」


アルマが胸元のポケットから、数枚のお金を取り出してこちらに渡してくる。

そんなに分厚くなく、札の横に建物が描かれている。

間違いない。

ユーロ札だ。




「エロい顔見せてくれたお礼に、受け取ってくれない?感謝状。俺と一緒に脱獄しよう」



ずっと笑顔なのは裏がありそうで怖い。



確かにこのお金を両替すれば色んなものが買えし、この船から脱出することも可能。



だが、彼が懸命に働いて稼いだお金なのかもしれない。

そう思えば受け取ることはできず、拒絶した。


「そんな大金、受け取れないよ。アルマくんが使いなよ」

お金を持っている手を胸の方に返す。


「そう。俺と脱獄したくないんだ」

鋭い眼差しでこちらを睨んできたが、迷わずに昔から叩き込まれている思想をぶつける。

「そういうわけじゃなくて……人のものを取るのは良くないよ!これ常識!」

そうはっきり言えば、彼の表情がパッと明るくなり頬を少し赤らめていた。

こんな表情初めて見たな。


「へぇ、アンタは信頼できそうだな。お金より人を大切にするなんて、普通できないことだ。面白いね」

そう言った直後、囚人服についているポケットに金をしまう。

ボタンを閉めて、こちらを見てくる。


彼はずっと頬が赤くて、目をキラキラさせながら僕のことを凝視。

当然のことをしたのに、なぜか連続殺人犯に好意を持たれてしまった。


(お金、貰えばよかったかも)


後悔しても断ってしまったのだ。

後戻りはできない。




「あのさ、アルマくんの過去の話聞いてもいい?」



仲良くなったのだから、この機会に彼の過去を聞いてみることにした。

すると彼は一瞬表情を暗くしたが、次の瞬間普通のニンマリとした笑顔に戻る。


あの表情は幻か?それとも勘違い?