「あの、ついたみたいだからさ。僕はこれで」


扉が開きそのままエレベーターから降りようとしたら、いきなり肩を強い力で押しつけてきた。

壁に背中が当たってしまう。

しかも力、強すぎる!



これでは閉まってしまうじゃないか!

地下三階か二階、一階へ行ってしまったら、彼以外の囚人に見つかって終わりだ。

この男は、他人の気持ちを考えられないのかもしれない。


「ねえ、さっきヘリの中で俺のことずっと見てたでしょ?」

そんな言葉と共に、先ほど取り出したナイフの刃を首に当ててくる。

少し血が垂れてしまった。

重要な場所を狙っていないのは、唯一の救い。


「み、見てたけど……」


ここで嘘をつけば、信用が薄れてしまうかもしれない。

震える声で、事実を言うことにした。

表情が見えないので、余計恐怖を感じてしまう。


「何で?もしかして俺のこと好きなの?それとも俺のこと、殺したいとか?」

「ち、違う!瞳が綺麗だなって思って」


これはあながち嘘ではない。

あの茶色くて綺麗な色をした瞳は、嫌でも吸い込まれてしまいそうで怖い。



照れ隠ししながらポツリと呟くと、彼は僕から離れて『開ける』のボタンを押した。

振り返った時の表情は、目元から笑っている普通の笑顔だ。


「降りたいんでしょ。良かったね、動かなくて」


何事もなかったように扉は開き、エレベーターから降りた。

と同時に、アルマはナイフを腰のポケットにしまう。