「この後ちょっと付き合ってくれる? 見せたいものがあるんだ。」

正志さんと電車に乗り、国領で降りた。
首が痛くなるほどの高層マンションを指さして正志さんは言った。

「このマンション、うちの事務所で設計したものなんだ。」

「すごい、高層マンションですね。」

「このあたりでは珍しいんだ。どう、このマンションに住まない?」

「えっ? でも正志さん、笹塚のマンションがあるじゃないですか? 」

「2人だと少し狭くない? 」

「丁度空きが出たんだ。今から見てみようよ。」

管理人さんに頼んでおいたようで、直ぐに鍵を貸してくれた。部屋は32階だった。
正志さんは部屋のドアを開けて私を招き入れた。

「ここならお母さんの所にもそう遠くないし、僕の職場にも行きやすい。駅にも濡れないで行ける。部屋はまだ内装リフォームが終わっていないから入居するとしても後1ヶ月位かかるけどどうかな? 楓は高いとこ大丈夫? 」

「あまり得意ではないですけど、ここは大丈夫そうです。夜景も綺麗。」

「それとね、夏になるとここから調布の花火が見える。すごいよ、特等席だ。」

「正志さんありがとうございます。気に入りました。」

「内装はこの間の軽井沢のホテルのようなカラーにしない? 」

「はい、あれ気に入りました。いいですね・・・」

「じぁあそうしよう。あとは任せてね。」

正志さんのお得意分野なので全てを任せた。


お互いに引越の準備を始めた。
入籍はしたもののまだアパートは引き払っていなかった。
正志さんが引っ越しは急がなくていいよと言っていた理由が分かった。これを計画していたから・・・


・・・いつも いつも正志さんは優しい・・・私のことを考えてくれる・・・


私のアパートには大してものはなかった。
残っていたものは結構思い切って捨てることにした。
あの部屋には似合わないから・・・



写真が出来たと写真館から連絡があった。
土曜日に正志さんと一緒に受け取り、その足で母のところに行き写真を見せることに決めた。

「こんにちは・・・」

「いらっしゃいませ。出来ていますよ、少しお待ちくださいね。」

ご主人は立派な台紙に貼られた写真を4冊持ってきてくれた。

「どうぞ、ご覧ください。」

正志さんと一緒に1冊ずつ見た。
1冊目はこのスタジオで撮った2人の写真だった。本格的な綺麗な写真だった。
2冊目は私1人で撮ったもの。
3冊目は病院で正志と私、そして母と3人で撮ったものだった。スタジオでは無いのに遜色ないくらいに綺麗に撮れていた。
4冊目は私が椅子に座り母と2人で顔を寄せ合うようにして撮ったものだった。

「嬉しい・・・みんな素敵です。ありがとうございます。」

ただの写真なのに、この写真には正志のやさしさと写真館のご主人のやさしさ、そして病院の先生たちのやさしさが詰まっている。それを思うと胸がいっぱいになった。

「楓、もうひとつこれ・・・」

正志さんが画面のようなものを渡してくれた。

「これね、フォトフレーム。ご主人が当日撮影してくれた写真がいっぱい入っている。見てみて。」

電源を入れるとフォトフレームには、母の笑顔の写真や少し涙目の写真、私が泣き顔で母を抱きしめている写真など多くの写真が次から次へ見られるように入っていた。

「こんなに撮って頂いていたのですね。」

「今回はサービスです。素敵でしたのでたくさん撮らせていただきました。このフォトフレームの案は旦那さんですよ。」

「ご主人も正志さんもありがとうございました。」

「これならお義母さんが病室でいつでも見られるでしょ。ずっと見ていても飽きないと思うよ。」

「本当にいつも いつもありがとう。」

正志さんに対して感謝が絶えなかった。
4種類の写真は事前に頼んであったのは1セットだったので、追加でこのスタジオで撮った2人の写真を2枚、母と2人で撮ったものを1枚追加した。