将棋指しなんて、ろくなものではありません。


「あら、薔薇」

生け垣の向こうに一輪をみとめて、わたしは散歩の足を止めました。
隣を行くひとは構わず通り過ぎようとするので、その紬の袖を引っ張ります。

言緒(ときお)さん。薔薇です」

練乳めいた花を指さすと、言緒さんは一瞥したあと、疑いの眼差しをわたしに向けました。

「これ、薔薇なの?」

「はい」

「私の知っている薔薇とはいろが違う。私を騙そうとしていない?」

「そんなことをして何の得があるのですか」

目線を合わせると、白薔薇は秋風に吹かれ、ふるんとお辞儀しました。
お行儀のよいこと。

「薔薇は、いろもかたちも、たくさん種類があるそうですよ」

「いろもかたちも違うなら、それは別の花じゃないの?」

「言緒さんと和香さんは全然似ていませんけど、同じご両親から生まれた兄妹ですよね」

言緒さんは胡散臭げに「白い薔薇か」とつぶやき、空を見上げました。
雲ひとつない、さわやかな秋晴れです。