梅雨に入ったばかりの六月初旬、私は、ブレザーの制服に身を包み、三ヶ月だけお世話になる三浦(みうら)運送の事務所で挨拶をする。

「今日からお世話になります、南 夏音(みなみなつね)です。三ヶ月間宜しくお願い致します」

派遣社員の私は、産休を取得した社員の代わりに、三浦運送で事務の仕事が決まった。三浦運送は、主にインターネットで商品を購入されたお客様の元へ商品を運搬したり、販売元メーカーと提携して運送代行を行なっている会社で、地方運送会社としては、規模は小さいが、地元ではそれなりに知名度があるそうだ。

「皆さん、拍手。南さん、宜しくね」

そう言って、事務所内に響くまばらな拍手の中、男性課長の挨拶の後、私は、経理課の1番端のデスクに座りパソコンの電源をいれる。

すぐに、課長含め数名の配送トラックの運転手達は、競うように事務所を飛び出していった。

私を入れて五名の残された事務員は、かかってくる運送に関する電話に順番に対応していく。電話音と話し声で騒がしくなった事務所で、隣の三十代の経理課リーダーの女性が、話しかけてきた。

「私は、陸奥和穂(むつかずほ)よ。三ヶ月宜しくね」

「あ、宜しくお願い致します」

和穂は、落ち着いた暗めの茶髪のショートカットで、少し垂れ目の大きな瞳を細めると、業務マニュアルを取り出して、私にゆっくり説明していく。

(丁寧だな……)