ドキッとしながら由井くんから視線をそらすと、わたしと一緒に去っていくアキちゃんの背中を見送っていた瑞穂が「ねえ」と話しかけてきた。
「矢本くんてさ、カノジョいるのに、衣奈との距離感すごく近いよね」
「そ、そうかな……。家近いし、小学生の頃から知ってるからね」
「だとしても、距離感近いよ。矢本くんて、誰とでも仲良くできるイメージだけど、衣奈とは特に仲良いよね。あんなに距離感近くて、今まで矢本くんのこと好きだな〜って思ったこととかないの?」
何気なくといったふうに訊ねてきた瑞穂の言葉に、ドキリとする。
「いや、でも……。アキちゃん、カノジョいるし」
「矢本くんにカノジョできたのって、夏休みくらいでしょ。それまでのあいだで、ときめいちゃったこととかないの?」
アキちゃんに、ときめいちゃったこと……。
そんなの、何度もある。アキちゃんが里桜先輩と付き合い出して、自分の気持ちを自覚してからは特に……。
だけど、そんなこと、たとえ瑞穂にも言えるはずがない。
アキちゃんには、わたしに対して恋愛感情は一ミリも持っていないんだから。言ったところで、虚しい気持ちになるだけ。
それに、ヘタにアキちゃんへの想いを誰かに口にして、これまでの関係を壊したり、アキちゃんと里桜先輩の付き合いを邪魔したくない。
「アキちゃんにときめくとかないよ。アキちゃんとは、きょうだいみたいな感じだし」
わたしがハハッと笑うと、「きょうだいか〜」と、瑞穂がなんだか不服そうな声でつぶやいた。