アキちゃんは、基本的に人との距離が近い。
わたしのことを女子として意識してないから、アキちゃんは無防備に顔を近付けてくるのだと思うけど……。
あまり近付かれたら、アキちゃんと里桜先輩のキスを思い出してしまうからやめてほしい。
「べつに、どうもしないよ。ていうか、近いから」
「そうか?」
わたしに指摘されて、アキちゃんが一歩下がる。
「あ、そういえばさ、衣奈――」
「あ、矢本ー。そういえばさっき、サッカー部のやつがお前のこと探しに来てたよ」
アキちゃんが、ふと思い出したようになにかを言いかけたとき、少し離れたところからクラスの男子がアキちゃんに声をかけてきた。
「え〜、名前誰?」
「なんだっけ。二組の背ぇ高いやつ」
「ああ……」
クラスの男子とそんな会話をしたあと、アキちゃんがわたしに向き直る。
「ごめん、衣奈。話したいことあったんだけど、またあとで」
「ああ、うん」
慌ただしくどこかに行ってしまうアキちゃんに手を振るわたしを、由井くんが無表情で見てくる。
いつもは、わたしが誰かと話すと目尻をつり上げて怖い顔をしている由井くん。その度に、彼が誰かを金縛りに合わせてしまわないかと気が気じゃないけど……。
今みたいに、無表情で生気のない目で見つめられるのもなんか怖い。