「衣奈ちゃんが急に心を失っちゃったのは、あいつのせいだよね」
「あいつ……?」
「アキちゃんだよ。あいつと彼女がキスしてるのを見て、動揺しちゃったんでしょ」
由井くんが、わたしに微笑みかけたまま、しっかりと核心をついてくる。
「ち、がうよ。そんなんじゃない……」
すぐに否定したけど、由井くんは貼り付けたような綺麗な笑みを崩さなかった。
「できれば気付きたくなかったけど……。衣奈ちゃんは、あいつのことが好きなんだよね」
「アキちゃんは、ただの幼なじみだよ」
「ほんとうは、あいつと付き合いたかった?」
「違うってば……!」
否定すればするほど、動揺で声が震える。
笑顔でわたしを見つめる由井くんは、言葉にできないわたしの気持ちを見透かしているみたいだった。