脇目も振らずに自転車を漕いでいると、「衣奈ちゃん、前!」と由井くんがわたしの耳元で叫ぶ。
ハッとして顔を上げると、目の前に電柱が迫っていて。衝突しそうになっている。
ハンドルを横に切って、急ブレーキをかけても、最悪転倒は免れないかもしれない。
目をつぶってハンドルを左に傾けながらブレーキをかけた、その瞬間。わたしの身体がふわっとした空気にやわらかく包まれた。
自転車ごと電柱にぶつかるか、ハンドルを切り損ねて派手に転倒する。
その二択しかないと思っていたのに、自転車が電柱からわずか数センチ手前で止まる。
あれ、わたし、助かった――?
「衣奈ちゃん、大丈夫?」
自転車のハンドルを握りしめたまま、まばたきしていると、由井くんが荷台からひょいっと降りて、わたしの前まで移動してきた。
「ギリギリで止めれてよかった。ケガしてない?」
そう訊ねながら、由井くんがわたしの顔を心配そうに覗き込んでくる。
どうして助かったのか、まだ実感の持てないわたしは、無言でコクコクとうなずいた。



