アキちゃんと里桜先輩は、何メートルか離れたところで自転車を止めたわたしには気付いていない。
気付いていないからこそ、アキちゃんは、里桜先輩の手をつないで引き寄せて、おもむろにキスをした。
ドクンと心臓が大きく脈打ち、動悸がし始める。
アキちゃんと里桜先輩がいっしょにいるところは、これまでに何度も見ている。ふたりが付き合っているということもわかっている。
でも、アキちゃんと里桜先輩のキスシーンを見るまで、わたしはほんとうの意味でふたりが付き合っているということが理解できていなかったのかもしれない。
少し離れたところからしか見ていないけど、アキちゃんと里桜先輩のキスはリアルで生々しくて。
ふたりが恋人同士なのだという現実を、はっきりと突き付けられた気がする。
わたしは自転車をぐるっと方向転換させると、今来た道を引き返した。
「衣奈ちゃん、方向違うよ」
家とは反対方向に逆走し始めたわたしに、由井くんが後ろから声をかけてくる。
でも、今のわたしに、アキちゃんと里桜先輩がいるほうへと自転車を走らせるのはムリだった。
アキちゃんへの気持ちは、あきらめるようと決めている。
アキちゃんが本気で里桜先輩を好きなことは、相談を受けていたからよくわかっているし、好きな人には幸せになってほしいから。
だけど、里桜先輩とのキスシーンを見て激しく動揺しているわたしは、アキちゃんのことをまだ少しもあきらめられていないのだ。
どうしよう。こんなこと、もしアキちゃんに知られたら幻滅される。



