「アキちゃん、急ごう」

 わたしはアキちゃんの肩を押すと、怖い顔でこちらを見つめてくる男子高校生のユーレイから遠ざけた。

 3両目の乗り場の前に立っている彼は、昨日と同様そこから動けないらしく。わたし達のことを怖い顔で睨んでくるものの、追ってはこない。

 あそこから動けないってことは……。自縛霊とか、そういうやつなのかもしれない。


「どうか、放課後までには成仏していてください……」

 駅の改札を出たあと小声でぶつぶつ祈っていると、アキちゃんがわたしのことを変な目で見てきた。

「どうした、衣奈? なんか疲れてる?」

「ぜんっぜん! 元気だよ」

「それならいいけど。衣奈は基本的に真面目でしっかりしてるけど、たまにさっきみたいに抜けてるときあるから心配だわ」

 アキちゃんが眉をハの字に下げて笑いながら、わたしの頭に手をのせる。

 手のひらの大きなアキちゃんに、頭をつかまれるようにぐしゃぐしゃと撫でられて、ドキドキと、朝から心音が速くなった。

 アキちゃんがこんなふうにわたしの頭を撫でるのは、小学生のときからやってるクセみたいなもの。

 わたしはアキちゃんに触られるとドキドキしてしまうけど、アキちゃんのほうは、なんとも思っていないからこそ気安くわたしに触る。