駅前の駐輪場に自転車を停めると、わたしと由井くんはいつもの通学経路でまず、うちの高校の最寄り駅に向かった。
由井くんをはじめに視た3両目の乗り場でホームに降りて、青南学院の最寄り駅に行く別路線の電車に乗り換える。
今まで特に用もなかったから、青南学院方面の電車に乗るのは初めてだ。
平日に学生がメインで利用する路線なのもあって、土曜日の昼前の時間帯はどの車両も空いている。
「この電車に乗って、なにか思い出したことはない?」
わたしは座席に座ると、あたりまえみたいに隣に腰かけた由井くんにひそひそ声で話しかけた。
電車は空いていて、座席に座るほかの乗客との間隔がだいぶ離れているから、窓の外を見るフリでもしながら小声でなら由井くんと話せる。
青南学院までは、ここから十分ほど。そのあいだになにか少しでも手がかりになるようなことを思い出してくれないかな……。
期待のこもった目で、由井くんを見つめる。だけど……。
「うーん……。おれ、ほんとうにこの電車に乗って学校行ってたのかな……」
車窓を眺めながら腕組みする由井くんのようすを見て、あまり期待できなさそうとすぐに悟った。
「これは、学校まで行っても収穫ゼロの可能性大だな……」
はぁーっとため息をついて天井を仰ぐ。そんなわたしに、由井くんがにこっと笑いかけてきた。
「でもおれは楽しいよ。衣奈ちゃんと出かけられて」
「あ、そう……」
わたしと並んで座る由井くんは、なんだかとても満たされたような、幸せそうな顔をしている。
もしかしたら、由井くんがなにも思い出さないのは、彼自身がそれを望んでいないからなのかも。
ふとそんな考えがよぎるけれど、それを追求するのはよくない気がした。



