土曜日だから、わたしは黒の細身のパンツにグレイのパーカーっていう部屋着仕様のラフな格好だけど、由井くんはブレザーを羽織った制服姿のままだ。そのうえ、首元を緩めてはいるけど、ネクタイもしめている。

 そのまま一日中過ごして、寝起きもしているけれど、由井くんの着ているものは、シワがついたり汚れたりしないから不思議だ。

 一度、「ブレザーだけでも脱げないの?」って聞いたら試そうとしてくれたけど……。

 脱ごうとしても、なぜかうまく脱げないらしい。ユーレイになる直前に身に付けていたものは、とろうと思ってもとれないのかもしれない。

 部屋を出て階段を降りると、まず洗面所に行って顔を洗う。

 そのまま由井くんを引きつれてリビングに行くと、キッチンのほうからコーヒーのほろ苦い香りが漂ってきた。


「おはよう、衣奈」

 すでに起きて、ダイニングで朝ごはんを食べていた両親がわたしを振り向く。


「おはよう。咲奈たちは?」

「まだ起きてきてないわよ。衣奈の朝ごはん準備するね」

「いいよ。自分でやる」

 わたしは、食べかけの朝ごはんを置いて立ち上がろうとするお母さんを止めると、キッチンに向かった。

 トーストを焼くと、お母さんがコーヒーメーカーに淹れた残りのコーヒーをちょっともらって、牛乳を混ぜてカフェオレにする。

 トーストのお皿とカフェオレのカップを持って食卓に座ると、ソファーのそばにいたクレイが、わたしに——、ではなく。わたしの背後に身を隠している由井くんに「シャーッ」と歯を剥いてきた。

 由井くんがわたしに憑き始めて一週間経っても、彼に対するクレイの警戒心は緩まない。

 それどころか、日を追うごとにひどくなっているような気がする。