「すみません、こいつ俺のツレなんです」
そう言ってサラリーマンに頭を下げて、わたしをその場から引きずりだしてくれたのは、幼なじみの矢本秋成だった。
「アキちゃん……」
同じ高校に通っている小学校のときからの幼なじみ。アキちゃんの出現に、緊張が解ける。
「変な場所で立ち止まってたらダメじゃん」
「ごめん、助けてくれてありがとう」
「おう、気を付けろよ」
アキちゃんが、わたしの肩をぽんと叩きながらにっこりと笑いかけてくる。そんなやりとりの間に、サラリーマンの男性はいなくなっていた。
だけど、横顔になにか別の視線を感じる。
ふと見ると、3両目の車両の乗り場の前に立ちすくむイケメン男子高生のユーレイが、ものすごく怖い顔でわたしたちを——というよりは、アキちゃんのことを凝視していた。
「衣奈ちゃん、それ、誰?」
3両目の乗り場からは少し離れたところにいるのに、怨念のこもったみたいな彼の低い声がわたしの耳に響いてくる。
その声はやっぱりわたしにだけ聞こえているらしく、アキちゃんはまったく気付いていないみたいだ。
わたしはともかく、アキちゃんが変なユーレイに取り憑かれてしまっては困る。