最初は、どこに行くにも由井くんが半径一メートル以内のところにいることが落ち着かなかったけど。(トイレやお風呂のときは、ドアを隔てて少し離れたところで待ってくれてる……)
だんだんと感覚が麻痺してきて、由井くんが近くにいることがふつうになってきた。
そして、ふと冷静になった瞬間に、彼がいることがふつうだと思い始めている自分がヤバいなと思う。
由井くんは、だいたいわたしよりも起きるのが遅い。
今日も変わらず綺麗な由井くんの寝顔を眺めて、ふぅーっとため息を吐くと、彼の長い睫毛がわずかに揺れた。
そろそろ、目覚めるのかもしれない。
わたしはベッドから這い出すと、由井くんが目を覚ます前に着替えを済ませた。
洗面所で顔を洗ってくる余裕、あるかな……?
由井くんが眠っているのを確かめてから部屋のドアを開けようとすると……。
「衣奈ちゃん、どこ行くの……?」
掠れた声の由井くんに呼び止められる。
ぐっすり眠っているようでも、由井くんは結構敏感で。わたしがどこかへ行こうとすると、すぐに気が付いて目を覚ますのだ。
「顔洗って、ごはん食べようと思って」
「ふーん。あれ、今日は制服じゃないの」
「うん、土曜日だからね」
そう言うと、由井くんがまだ眠そうな顔で「そっか」とうなずいた。
それから、音もなくベッドから起き上がってわたしのほうにふらりと近付いてくる。