「今日も衣奈ちゃんに会えてよかった」

 血の気が引いて冷たくなった指先を手のひらにぎゅっと握り込むと、やたらと色白な彼がわたしに向かって嬉しそうに微笑みかけてくる。

 その笑顔も口ぶりも、まるでわたしのことをよく知っているみたいだ。わたしは彼の姿に全く見覚えがないのに。


 どこかで会ったことがある人……? 

 それともわたし、知らないあいだに彼から恨みでも買ったの……?


「衣奈ちゃん、あのさ」

 必死に考えていると、目の前の彼がなにか言いたげにわたしのほうに手を伸ばしてくる。

 え、なに……。どうしよう。

 ビクッとして思わず一歩後ずさると、後ろから電車を降りてきていたサラリーマンに背中がぶつかった。

「おい……」

 20代後半くらいの男性に不機嫌そうな顔でじろりと睨まれて、またビクッとなる。

「すみません……」

 目の前には得体の知れない男子高校生の、たぶんユーレイ。後ろには、怒った生身のおとなの人。

 その両方に前後を塞がれて泣きそうになっていると、「衣奈」と誰かが横からわたしの腕をつかんで引っ張った。