駅で電車が止まって乗客が入れ替わるたび、由井くんの胸や腕をいろんな人がすり抜けていくけど、彼自身は痛くも痒くもないので、わたしの隣で機嫌よさそうににこにこしている。
朝の満員電車なんて、99.9%の人が眠さと不快感でしかめっ面なのに。この車内で朝からにこにこしてるのは、たぶん由井くんだけだろう。
なにがそんなに楽しいのかと思って見ていたら、わたしの視線に気付いた由井くんがにこっと笑いかけてきた。
「いつも離れたところから見てるだけだった衣奈ちゃんと一緒に通学できるなんて、夢みたい」
由井くんが嬉しそうに話すのを聞いて「ん?」と思う。
「いつも離れたところから見てたってどういう意味? なにか思い出したの?」
ひそひそ声で訊ねたら、由井くんが「え?」と首をひねる。
「なにか思い出したってわけではないんだけど、なんか、ふっと、いつもはもう少し離れたところから衣奈ちゃんを見てたなって思ったんだよね……」
「え?」
由井くんの話に、ピクリと頬がひきつる。
いつもはもう少し離れたところから見てた、って。それ、どういう意味?
ユーレイになる前の由井くんは、毎朝電車の中で、どこからかわたしを見てたってこと……?
わたしは、彼のことを知らなかったのに――?
しかも、わたしを好きだったってことしか覚えてないみたいだし。
なんか、嫌な予感がするな。



