「衣奈ちゃん、衣奈ちゃん……、早く部屋戻ろう」
由井くんがしきりに耳元に訴えかけてくるけど、拓と自分の朝ごはんを作らないといけないから、そうもいかない。
由井くんの声を無視してキッチンに向かう。
わたしがトーストと目玉焼きを焼いているあいだ、クレイはずっと警戒しっぱなしで背中の毛を逆立てていて。由井くんはわたしの背中に隠れるようにして震えていた。
動物は霊的なものに敏感だって聞いたことあるけど、本当だったんだな……。
クレイに威嚇されながら拓といっしょに朝ごはんを食べ、先に出かけるという咲奈を見送ったあと、わたしも制服に着替えて家を出た。
トイレとお風呂と着替えのときは、さすがに部屋のドア一枚挟んで向こう側にいてくれる由井くんだけど……。
わたしからあまり距離をとることはできないらしく、あたりまえみたいに学校にも憑いてきた。
通学時間帯の電車は、押し潰されるほどにぎゅーぎゅー詰めってことはないけれど、一度立ち位置を決めてしまえば身動きがとれなくなるくらいには混んでいる。
わたしは吊り革に捕まって揺れる電車の中でバランスを崩さないように必死だけれど、実体のない由井くんは電車の中でもずいぶんと余裕そうだ。



