ホームに入ってきた電車に乗り込むときにチラリと見たら、彼は3両目の乗り場の前で立ち止まったままでいた。

 どうやら、こっちまで追いかけてくるつもりはないらしい。

 それにしても、どうしてあの人はわたしの名前を呼んだんだろう。

 疑問に思ったけれど、その理由をあまり深く考えたくはなかった。

 だってたぶんあの人は、《視えてはいけないもの》だから。

 なるべく早く忘れてしまおう。

 わたしはため息を吐くと、空いていた座席を見つけて腰をおろした。