「いや、今はそういう話じゃなくて……。青南学院の制服も同じように刺繍があれば、あなたの名前がわかるんじゃないかなって思ったんだけど……。あなた、わたしのことしか覚えてないって言ってたのに、わたしの名字は覚えてないの?」
「うん。おれが覚えてたのは、衣奈ちゃんの顔と名前だけ。三住って名字は、今初めて知ったような気がする。なんとなくだけど……」
彼がそう言いながら、ボタンを止めずに着ていたブレザーの左側を手で引っ張る。
わたしのことしか覚えてないって言われたときもわけわからないって思ったけど……。名前は知ってて、名字は覚えてなかったっていうのもよくわからない。
彼は、下の名前と顔しかわからないわたしのことが好きだったってこと?
イケメンユーレイの話にぐるぐると頭を悩ませていると、ブレザーの左側を広げた彼が「あ!」と声を上げた。
「衣奈ちゃん、すごい。天才かも」
ベッドからふわりと降りてきた彼が、わたしにブレザーの左胸の内側を見せてくる。
「おれの制服にも、名前が刺繍してある」
彼のブレザーの裏に刺繍されている名前は〈由井〉だった。
「由井、くん……?」
「みたいだね」
ブレザーの左側を開けたまま、イケメンユーレイ――、もとい、由井くんが、他人事みたいに少し首を横に傾ける。



