「まずは、落ち着いて状況確認させてね。あなたは、わたしのこと(正確にはわたしを好きってことしか)覚えてないって言ってたけど……。ほんとうに、ほかのことは何にも覚えてないの?」
問いかけると、彼が困った顔でわたしを見つめてきた。
「ほんとうに、何も覚えてない。気付いたときには、さっきの駅のホームにひとりで立ってたんだけど……。自分が誰なのか、いつからあそこに立ってたのかもわからなくて……。しばらくぼんやり立ってたら、急に衣奈ちゃんの顔が頭に浮かんできて。ああ、おれ、この子のことが好きだったって思い出したんだ。それからはずっと、早く衣奈ちゃんに会いたくて待ってたよ」
わたしのことを好きだってことしか覚えていない。
そういうイケメンユーレイの主張は、やっぱりブレない。
記憶喪失で、自分の名前も恋人のことも忘れちゃった……、なんて話は見たことあるけど。
好きだった人の顔と名前しか覚えてない記憶喪失って、そんなこともあるのかな……?
不思議に思いながら見つめると、イケメンユーレイがニヘラッと嬉しそうに笑いかけてくる。
わたしはマジメに話し合いたいのに、どこか締まりのない彼の笑顔には全く緊張感がない。
彼がどこの誰で、どういう経緯でわたしの名前を知ったのかはわからないけれど……。
自分が誰かもわからなくて、わたしのことしか覚えてないっていう今の状態に不安はないのだろうか。



