どうしてそんな言い方をするのかと言うと……。
駅のホームでにこにこと手を振っている彼の様子が、どう見てもあきらかにおかしいから。
学校帰りなのにカバンを持ってないってところも変だけど、それ以上におかしいのは彼の身体だ。
さっきから、ホームを歩く人たちがみんな、3両目の乗り場の前に立っている彼の身体をどんどんと通過していっている。
どうやら、わたし以外の人には彼の姿が見えていないし、声も聞こえていないようなのだ。
何あれ。どういうこと……?
もしかして、なにか見てはいけないものが視えているんじゃ……。
わたしは青南学院の制服を着たイケメンから目をそらすと、1両目の乗り場のほうに速足で歩いた。
ほんとうは地元の駅で降りるときに3両目に乗っておくと改札が一番近いのだけど、背に腹は代えられない。
「待って、衣奈ちゃん! 行かないで!」
イケメンが必死な声で呼びとめてきたけど、わたしは全力で聞こえていないフリをした。