「え、今、なんて?」

 思わず聞き返すと、イケメンユーレイが「だから……」と、ちょっと恥ずかしそうに眉根を寄せた。


「おれ、衣奈ちゃんが好きってこと以外、何も覚えてないんだ」

 聞き直しても、返ってきた答えは変わらない。

 え、ちょっと待って。

 わたしを好きってことしか覚えてないって、どういう意味……?

 わたしはこの人のこと、1ミリも知らないんだけど。

 混乱して額を押さえていると、イケメンユーレイが不安そうな目をしてわたしの顔を覗き込んできた。

 びっくりして後ずさると、彼が少し傷付いたような顔をする。


「お願い、怖がらないで。自分でもよくわからないけど、おれ、衣奈ちゃんのことがすっごく好きなんだ。だから、しばらく憑いてっちゃダメ?」

 上目遣いにわたしを見つめる彼の目が、同情を誘うように潤む。

 しばらく憑いてっちゃダメ?、って。

 まさか彼は、わたしがその質問に「いいよ」と笑って答えるとでも思っているのだろうか。

 わたしは、どちらかというとおせっかいで面倒見がいいほうだと思う。


 だけど、さすがにユーレイは困る……。

 ものすごく、困る……。