「衣奈ちゃん、やっと会えた!」
学校からの帰り道。
いつも利用している高校の最寄り駅の改札を抜けてホームに入ったわたしは、こちらに向かってにこにこと笑いなら手を振ってくる人物の姿に驚いて目を丸くした。
電車の3両目の乗り場あたり。そこに立っているのは、黒髪で目元の涼やかなイケメンだ。
そのイケメンがとても親し気に、なれなれしく、そして嬉しそうに。「衣奈ちゃん」とわたしの名前を呼んで、大きく手を振ってくる。
遠目からでもわかるくらいに爽やかでキラキラした彼の笑顔を凝視しながら、わたしは果たして手を振り返していいものかどうか、一瞬悩んだ。
黒のブレザーにグレーのズボン。細いゴールドの斜めストライプが入った紺のネクタイ。
彼が軽く着崩しているその制服が、この駅で別の路線に乗り継いで何駅か先にある私立進学校・青南学院のものだということは一目でわかるのだが……。
わたしの記憶の限りでは、青南学院の生徒だったイケメンの知り合いなんていない。