今日の夕飯はなににしようかな。
帰りが遅くなっちゃったし、寒いし。お鍋の材料でも買って帰ろうか……。
何鍋がいいかな……。水炊き? ちゃんこ? 豆乳?
咲奈や拓の顔を思い浮かべながら考えていた、そのとき。
「衣奈ちゃん、やっと会えた!」
ふいに、聞き覚えのある声がした。
ドキッとして顔をあげると、ホームの3両目の乗り場の前に黒髪で目元の涼やかなイケメンが立っていて。
その人がとても親し気に、なれなれしく、そして嬉しそうに、「衣奈ちゃん」とわたしの名前を呼んで大きく手を振ってくる。
黒のブレザーにグレーのズボン。細いゴールドの斜めストライプが入った紺のネクタイ。彼が軽く着崩しているその制服は青南学院のもので。
遠目からでもわかるくらいにキラキラした彼の笑顔を認めたわたしの視界が、涙の膜でぼやけた。