わたしは一歩前に出ると、輪郭のぼやけ始めた由井くんの頬に右手を伸ばした。
実際には触れることのできない由井くんの感触を想像して、手のひらを椀状に丸めると、彼に顔を近づける。
「衣奈、ちゃん……」
戸惑ったように目を見開く由井くんを見上げて、わたしは、ふっ、といたずらに笑った。
「キス、試してみようか?」
お見舞いに来るたびに、由井くんは『チューされたら目覚めるかも』なんて冗談混じりに言っていた。
言われる度に恥ずかしかったし、由井くんへの気持ちも曖昧で、そんなのできるわけないって思ってたけど……。
今、この瞬間、空事でもいいから由井くんに触れたい。
「ちゅーされたら、目覚めるかもしれないんでしょ?」
「え……?」
うっすらと半開きになった由井くんの唇。わたしはつま先立ちになると、そこに触れるように、唇を合わせた。



