「由井くん、どうしてここに……?」
肩をつかもうと伸ばした手が、彼の身体をすり抜けて宙で止まる。
わたし、触れないのに……。
もどかしい気持ちで、引き戻した手をぎゅっと握りしめる。そんなわたしに気づいた由井くんが、ぼんやりとした表情で首をかしげた。
「君、は……?」
わたしのことが誰だがわかっていないような、そんな反応をされて、ちょっとショックだった。
「由井くん、わたしのこと、わからない――?」
泣きそうな声で訊ねると、ぼんやりとしていた由井くんの瞳に、ふと光が戻る。
「衣奈、ちゃん……?」
ハッと目を見開いた由井くんに、確かめるように名前を呼ばれてほっとする。
「よかった。忘れられてなくて……。由井くん、急に消えちゃうから、焦ったよ」
「おれ、急に消えたの?」
「そうだよ。トラックに轢かれそうになったわたしを助けてくれたあと、横断歩道のそばで突然うずくまって震え出して……。それから、煙みたいに消えちゃった。覚えてない?」
「ごめん、わからない。でも、轢かれそうになった衣奈ちゃんを助けようとしたときに、急に自分のことをいろいろ思い出して……。身体が震えて頭が痛くなって……。気付いたら、この病室にいた」
由井くんが、そんなふうに状況を説明してくれる。



