高校一年の終わり頃、同級生の中条瑛士に目を付けられた。
「お前、由井原総合病院の息子なんだってな」
教室でいきなり足を引っかけられて転び、驚くおれを見下ろして、中条瑛士がニヤリと笑う。
その瞬間、頭のなかに試合終了のゴングが響き、おれが守ってきた平穏が崩れた。
青南学院は中高一貫の進学校で、おれも含めて高等部にいる生徒の7割は中学受験で入った内部組。
中条瑛士は高校から入ってきた外部組で、成績はよかったが、素行は悪かった。
中条の父親は市議会議員で、うちの学校の卒業生。母親は、PTA関係の役員。
学校にも多額の寄付をしているという中条の家は裕福だったはずだし、中条自身も特に不自由のない暮らしをしてきたはずだ。
だから、このあたりでそこそこ大きい病院の息子であるおれに目を付けたのは、きっとただの暇つぶし。
ほとんど無理やり中条と連絡先を交換させられたおれは、それ以来、中条とその仲間にしょっちゅう呼び出されて、金をとられたり、殴られたりした。