「衣奈ちゃん――」

 由井くんの唇が、わたしになにか伝えようと震える。だけど、その声はわたしの耳に届かない。


「由井くん、なに……?」

 由井くんの口元に耳をよせる。


「衣奈ちゃ……、た……、けて――」

 途切れ途切れに聞こえてくる由井くんの声。


「由井くん、でも、わたし――、どうすれば……」

 助けを求める由井くんを泣きそうに見つめたその瞬間、由井くんの身体が目の前でぐにゃりと歪んだ。


「え……」

 驚いて、息を飲み込む。

 そんなわたしの目の前で、まるで煙のように、由井くんが消えた――。