「つ、次行こう……」
「え、もう?」
由井くんからパッと顔をそらすと、人混みにまぎれる。
「待って、衣奈ちゃん」
わたしが人混みの中を進んでいくと、由井くんの声が追いかけてくる。
「どうしたの? 急に」
「どうもしないよ。ほかにも見るところいっぱいあるでしょう」
「そうだけど……。せっかく来たんだから、もうちょっとゆっくり見ようよ〜」
由井くんがちょっと不満そうに訴えてくる。そんな彼の顔を、わたしはあえて見ないようにした。
自分から誘ったくせに、これがデートだって構えちゃうとなんだか妙に恥ずかしい。
今日ここへ来たのは、ずっと元気がない由井くんの気分転換のため。ただそれだけで、ふたりでここへ来たことに深い意味なんてないんだ。
わたしは由井くんをちょっと意識してしまったことを悟られないように、うつむき気味に歩いた。



