「由井くんは、死にたがってなんかないよ……。だって、もし死にたがってたなら、わたしになんか会いに来ないじゃん」
全てを忘れてしまった由井くんが、駅のホームで助けたわたしのことだけを覚えていて、ユーレイ状態でもわたしに会いに来てくれた。
そのことに、どうか前向きな理由があってほしい。
もし、由井くんがまたわたしの助けを必要として会いに来てくれたのなら……。ホームでうずくまって震えていた由井くんの手をとったときみたいに、もう一度彼の手を握りしめたい。
部屋の隅で、背中を丸めて小さくなっている由井くんの手に手を伸ばす。
だけど、わたしの手は半透明の彼の手をするりと通過して……。あのときのようには、つかめない。
冷たかったけれど、たしかな温度があった、彼の手には触れられない。そのことが、どうしようもなく、もどかしくて仕方がない。