「やっぱりないかぁ」
「ないよ……!」
「でも、試してみるだけでも……」
「試さない!」
強い口調で否定すると、由井くんがちょっと不満そうに唇を尖らせた。
そんな顔されたって、試さない。試すはずない。
だって、白雪姫にしてもいばら姫にしても、王子様がお姫様のことを愛しているからこそ、そのキスに意味があるのだ。
わたしは王子じゃないし、由井くんはお姫様じゃない。
由井くんのことは、今はただの知り合い以上に思ってるけど……。
その気持ちは、愛とか恋とかそういうのじゃない。
「これ以上ここにいてもなにも思い出せそうにないなら、そろそろ帰るよ……!」
「ああ、うん」
わたしが病室のドアに向かって歩き出すと、由井くんもついてくる。
「また明日もここにくる?」
由井くんに訊ねられて、「たぶんね」と答える。
熱くなった顔をなるべく由井くんに見られないように、早足で彼の病室を出た。



