ホームのギリギリのところにしゃがんで動かなくなってしまった由井くんを心配していたら、わたしの行動を不審に思ったのか、駅員さんに声をかけられた。

「危ないから下がって」と言われたあと、学校や名前、そこでなにをしているのかと立て続けに質問されて、ちょっと焦った。

 由井くんの姿が見えない駅員さんには、わたしが駅のホームから線路に飛び込もうとしているように見えたんだと思う。

 由井くんの震えは止まらないし、駅員さんには変な疑いをかけられて親と学校に連絡されそうになるし……。ごまかすのが、いろいろと大変だった。

 駅に停車した電車を何本も見送って、ようやく由井くんの震えが落ち着いたときには、わたしも心底ほっとした。


「とりあえず、由井くんと無事に帰って来れてよかったよ」

 寝転んだまま由井くんを見上げて笑いかけると、彼が恥ずかしそうに少し目線を逸らした。


「よかった、って……。衣奈ちゃんは、早くおれに離れて行って欲しいんじゃないの? あのとき、駅のホームにおれを置いてってれば、離れられたかもしれないよ」

 由井くんに指摘されて、ハッとする。

 言われてみれば……。

 あのときの由井くんは、わたしから完全に意識が逸れていたし、わたしがどれだけ声をかけても反応しなかった。

 パニック状態の彼からそっと離れて電車に乗ってしまえば、もしかしたら由井くんと離れることができていたのかもしれない。

 でも……。

 ずっと由井くんと離れたいと思っているのに、あのときはそんな作戦、思いつきもしなかった。