最初は顔を伏せて首を横に振っていた彼だったけれど、不自然な場所でしゃがんでいるわたし達に気付いた駅員さんが近付いてきてくれて。
わたしは彼のことを、ホームの待合用の椅子まで連れて行くことができた。
椅子に座らせたあとも、うつむいてなにも言わない彼に、わたしは自販機で買ってきたペットボトルの水を渡した。
わたしと彼は、三十分ほどお互いに何も言わずにホームの椅子に座っていた。
やがて、気持ちが落ち着いたのか、彼がふらりと立ち上がって頭を下げた。
「――なさい……。それと、――とう、ございました……」
ボソボソした声で話すからよく聞こえなかったけど、たぶん、謝罪とお礼を言ってくれていたのだと思う。
そのあとしばらくして、わたしは彼にホームの3両目の乗り場の前で呼び止められて告白された。
あのとき助けた男の子は、髪の毛もボサボサで、長すぎる前髪で顔がよく見えなくて暗い印象で、ブレザーの全部のボタンをビシッと止めていてマジメそうで。ボソボソ喋って名前も教えてくれなくて……。
あの男の子と、ユーレイの姿でわたしの前に現れた由井くんとは見た目の印象が全然違う。
だから気付かなかったけど、うずくまって震える由井くんの背中を見ていたら、その姿があのときの男の子と完全に一致した。