「けほっ」

最近肌寒くなってきた

セーター着てくれば良かったなぁ

ポケットに入っているカイロを取り出して頬に当てる。

あったかぁい…

冷えた体がジワジワと温かくなる。

「あ、麗奈(れな)カイロ持ってる~」

声を掛けてくれた奈緒(なお)ちゃんの方を向く

「今日寒いもんね~」

友達の奈緒ちゃん

笑顔が可愛い奈緒ちゃんはロングの髪を丁寧にお手入れしている女の子

最近の奈緒ちゃんの悩みは彼氏ができないことらしい。

少し鼻が赤くなっている奈緒ちゃんにだねーと返事をしながらカイロを貸そうとすると後ろから天宮(あまみや)、と声を掛けられた

「え、はい!」

滅多に休憩時間に声を掛けてこないので驚いて返事をする

「飴」

そう言ってくる一ノ瀬くんに申し訳なく思う

「あの、ごめんなさい…今日、のど飴なの」

両手を合わせてペコッとすると奈緒ちゃんが心配そうにどしたの?風邪?と聞いてくれる。

「ううん!風邪ってほどじゃないの!少し咳がでるだけ!」

首を振って安心させるように笑ってみせる

「それでも油断大敵!暖かくしないと!」

奈緒ちゃんは私の両手をギュッと包み込んでくれた。

カイロと奈緒ちゃんの手、暖かい…

ありがとう、とお礼を言うと奈緒ちゃんは私も暖まるからありがとう、と逆に感謝してくれた

二人でほのぼのしているとハッと一ノ瀬くんのことを思い出す

一ノ瀬くんの方を向くとすぐに目が合う

「…なに味?」

「み、ミルク…」

一応差し出してみると一ノ瀬くんは飴を私の手から取る

一ノ瀬くんは袋をちぎって私に手招きする。

不思議に思って少しだけ顔を近づけると袋に入っていた飴をひょいっと口に入れてきた。

「え」

私の口の中でコロコロと飴が転がる。

なんで急に…

「のど飴は好きじゃない」

だから食べて、と言ってくる一ノ瀬くん

べ、別に食べるつもりだったからいいけど…恥ずかしい

目の前の男子に食べさせてもらったのかと思うと体温が上がる。

「え、なになに、二人付き合ってるの?」

奈緒ちゃんが頬を赤く染めてはしゃぎながら聞いてくる。

「ちゅ、ちゅき合ってないよ!」

飴のせいで喋りにくさを感じながら否定する。

顔が熱くなっていくのを感じながら首を振るけど奈緒ちゃんはまだ興奮が抑えられていない様子。

「一ノ瀬くんは飴!飴が好きなだけ!」

ね!と、同意を求めるべく一ノ瀬くんに視線を向ける。

すると一ノ瀬くんはいつの間にか伏せていた顔を上げて視線をこちらに向けた。

「ああ、好きだよ」

優しげな声色に私に向けられた言葉のように感じて固まってしまう。

一ノ瀬くんはそんな私を見てフッと笑った後、真っ赤と呟いて私の髪を一束とる。

一つ一つの動作に脈が速くなってきて倒れそうになる。

「…麗奈」

「っ~!!」

ガタンッと勢いよく立ち上がって椅子が倒れそうになる。

なん、で、名前呼び…!?

パクパクと口が動くだけで声にはならない

「おーい、颯真(そうま)!ちょっといいかー?」

そのタイミングで教室の扉から一ノ瀬くんを呼ぶ男子が来た。

一ノ瀬くんは扉の方を向くと小さくため息を吐いて立ち上がった。

「じゃな」

と、私より身長が高い一ノ瀬くんはポンッと私の頭に手を置いて歩いて行った。

っ…し、

「しぬ…」

私の心の声を奈緒ちゃんがポロッと声に出す。

なにあれ!イケメンすぎ!と、興奮して赤くなっている奈緒ちゃんに同意の意味を込めてコクコクと何度も頷く。

っ…心臓が早い

男の子とあんまり接点のない私からしたらあの距離は心臓に悪い

「びっくり…した」

このドキドキは驚きと戸惑いのせいだとこのときは信じて疑わなかった