『ねぇ父さん。母さんって、何でフルーツみたいな匂いがするの?』


『そうか。お前にはフルーツみたいな匂いがするか』


『父さんは違うの?』


『そうだな。父さんにはミルクチョコレートみたいな匂いがするよ』


『チョコレート?僕と全然違う!』


『お前が大きくなって好きな子ができた時、その子の甘い匂いを感じるようになるはずさ』


昔のやり取りを思い出す。

まゆから(ただよ)う濃厚なキャラメルみたいな匂い。

すごく甘い匂いがするのに、血はどこまでもなめらかで。

永遠に触れていたいとさえ思う。