莉生にキスをされた後、珊瑚は莉生の顔をまともに見ることも、話すこともできないまま、空き教室を飛び出して家に帰ってしまった。

文化祭の最終準備のため、廊下はまだ生徒がたくさんいる。その中を走っていくため、ジロジロと多くの視線が突き刺さった。だが、そんなことを気にしている余裕など珊瑚にはどこにもない。

(何あいつ……あんな、ギラついた目で、まるで男の人みたいな……)

思い出すだけで胸が高鳴っていく。どうしてこんなにも苦しいのか、鼓動がいつもより速いのか、全くわからない。全速力で走っているだけが原因ではないと珊瑚は思った。

(絶対、さっきのアレのせいだ……!)

明日は劇を発表する本番当日だというのに、まともに莉生の顔を合わせられるのか、珊瑚は胸を高鳴らせつつも、少し不安になってしまう。

(何か、今、小鳥くんに会うのがすごく気まずい……)

今までの珊瑚にとって、莉生は女の子より可愛いと騒がれているクラスメートに過ぎなかった。それが今、見方が変わろうとしている。