そう言われたものの、珊瑚の目には自分の目の前で強い口調で話す莉生の方が可愛らしく見えてしまう。やはり、彼がお姫様役に相応わしい。

「……みんなが、小鳥くんを推薦した。だからあなたが演じるべきだろ?」

「何それ、僕は男だよ」

どこか悔しそうな顔を莉生は浮かべる。刹那、強い力で腕を引っ張られた。

「えっ!?」

華奢に見える莉生にそんな力があったことに、珊瑚はただ驚いてしまう。気が付けば珊瑚の背中には壁があり、目の前には莉生がいた。

「小鳥、く……」

驚き戸惑う珊瑚の唇に、柔らかな何かが触れる。目の前には目を閉じている莉生の顔があり、数秒かけてようやく珊瑚は少女漫画のワンシーンのようなキスをされていることに気付いた。その瞬間、顔中に熱が集まっていく。

「顔、真っ赤。可愛い」

唇が離れた後、莉生はフッと笑いながら珊瑚から離れる。だが、その目は肉食獣のようにギラついており、「女の子のように可愛い」とは思えなかった。