劇は大成功を迎えた。莉生は「いつもと違ってかっこいい」と他の学年の女子たちにも言われ、珊瑚も「あんなに綺麗な子、いたっけ?」と囁かれていた。最後のキスシーン(キスをするフリ)はあちこちで悲鳴が上がり、盛り上がっていた。

「終わった……」

何とか無事に劇が終わり、着替えを済ませた珊瑚は屋上でフウッと息を吐いていた。莉生は劇が終わってみんなに囲まれていたものの、珊瑚はそっとステージから離れ、着替えてここにきたのだ。

息を吐きながら珊瑚は唇に触れる。劇の前、二度莉生とキスをしたこの唇は、劇の時には触れることはなかった。ギリギリのところでピタリと止まったのだ。それには、何故か珊瑚は驚いていた。莉生なら本番でもキスをするのではないか、そう思っていたからである。

「……って何、期待してたみたいなこと思ってんだ!?」

自分で自分がわからない。フェンスにもたれかかり、突っ伏していると文化祭を楽しむ声が耳に届く。すると、頰に温かいものが触れた。