私立羽富中学校は、明日が文化祭だ。そのため生徒たちは準備に一段と力を入れている。

「看板、ここに置いていい？」

「黒板アートできたよ〜！」

「紙コップ足りてる？」

「ごめん、そのテープ貸して〜！」

ガヤガヤとした声があちこちから聞こえてくる中、一人の背の高い女子生徒はある教室のドアを開けた。誰も使っていない空き教室だ。

「あっ、来た来た！」

その空き教室では、一人の男子生徒がいた。彼女の姿を見ると、嬉しそうに手を振る。ふわふわとした髪に、男子にしては低めの身長、真っ白な肌にぱっちりとした二重の目と、アイドルの女の子のように可愛らしい顔立ちである。

「悪い、ちょっと顧問に呼び止められてな」

女子ーーー四季珊瑚（しきさんご）が謝ると、男子ーーー小鳥莉生（ことりりお）は「大丈夫だよ！」と首を横に振る。二人は同じ二年二組の生徒だ。

「珊瑚ちゃん、演劇部の方でも舞台に立つんだよね？それなのに、クラスの出し物の劇もなんて、すごく大変だよ。無理しないでね？」