23時の王子様とのホワイトデー

「美弥もこれ読め!プレパパ、プレママのバイブル『たまごちゃんクラブ』!これにちゃんと妊娠中のセックスについても書いてあんの!」

「は、颯……分かったから……静かにね」

「……なぁ、美弥。ちゃんと、俺の事も構ってくれるよな?」

「へ?」

颯が、取り出した『たまごちゃんクラブ』は、めくり過ぎて、傷んできている。

「これに書いてあんだよな……後ろの方に、新米パパさんコーナーがあってさー、赤ちゃん産まれたら、ママは赤ちゃんに夢中で、パパが寂しい思いするパターンが結構多いらしくてさー……」

思わず、クスッと笑った私を見て、颯が、ますます口を尖らせた。

「おい、笑うな。マジで心配してんだからな」

目の前の王子様は、どうしてこんなに愛おしいんだろう。私は、いつだって、颯の事が大好きで、颯に夢中で、颯だけを見つめているのに。

きっとそれは、子供が産まれても変わらない。

「私にとって、颯は、永遠に王子様だよ」

小さな声で囁くと、颯が、ほんのり頬を染めた。

「おい、いつから俺、喜ばせるの上手くなったんだよっ」

「内緒」

私達は、産まれてくる小さな命達に想いを馳せながら、暫く笑い合った。