「…音楽界の貴公子…。」



表紙には、ピアノを弾いている男性。
見出しには、そう書かれていた。


まだ若いその男性は数々の賞を総なめにしているそうで、彼を讃える言葉がいくつも書かれている。
基本は海外で活躍している人だけど、日本でもコンサートを開くらしい。



「……なにが、貴公子よ…。」



わたしはこの男をよく知っている。
嫌という程、奥深くまで知っている。


イケメンだの、紳士だの、持て囃されるこの男が。
本当はただの腹黒いやつで、歪んでて、おかしくて。



「……っ…。」



頭が、痛い。
ズキズキする、帰りたい。

お目当ての雑誌だけ買って、足早に本屋を後にする。

苦しい、上手く息が吸えない。
自分の荒い呼吸音が耳に嫌にこびりつく。



「……はぁっ…はぁ…っ…。」