そうして、そわそわしつつ作業を進めていると。
カタン…とドアの開く音がした。



「おかえりなさい…!
…え?」


「芽来ちゃん、起きてたの?
ごめんね、藤雅じゃなくて。」



藤雅だと思って、出迎えたら。
そこにいたのは、申し訳なさそうにしている十葵だった。


あれ、藤雅じゃないの?
まだ帰ってこないの?



「あれ、藤雅は…?」



「ごめんね、今日は帰れそうなくて。
着替えだけ俺が取りにきたんだ。」


「あ…そう、なんだ。」



なんで?
そんなの初めてじゃん。
帰ってこないなんて、今までなかった。


もしかして、浮気?
仕事っていうのは嘘で、本当は別の女に会ってるの?
そういえば、連絡だって返ってきてない。



「わたし、寝るから。
着替えとったら、電気消しておいて。」



十葵にそう言い放って、わたしは初めて。
寝室のベッドじゃなくて、こっちのベッドに潜り込んだ。


十葵に八つ当たりしたのは分かっていた。
だけど、どうしようもなくイライラしてて。
乱雑にドアも閉めたし、十葵のおやすみって言葉にも返事できなかった。


こんなことで、イラつく自分が嫌だし。
なによりも感じたことのない、不安な気持ちが広がって。



「…死にたいなあ。」



数年ぶりに呟いた。