俺は叶汰の肩にそっと手を置いた。
「なぁ叶汰。この夢、俺らで叶えてやらないか」
叶汰ははぁっと溜息をついた。
「お前…よくその腕でそんなこと言えるよな」
「またこの腕で投げてやるよ。医者に不可能だって言われようが関係ねぇ。生きてさえいれば、この世に100%不可能なことなんてねぇんだよ」
叶汰は呆れたように笑った。
「陽介。お前は本当に真面目だよな。真結だって、別にこの夢を本気で叶えてほしくて書いたわけじゃないと思うぞ。0%に限りなく近いほどしかない可能性に、お前の人生棒に振る方が真結にとっては嫌なことだと思う。真結はきっとお前の幸せを一番願ってるよ」
「そうだな。俺が幸せでいることが一番だと思う。だがな、残念ながら俺の幸せは、真結さんと野球で出来てるんだ。真結さんのために野球をするなんて、これ以上の幸せなんてねぇーよ」
「お前、ほんとにバカかよ」
「真結さんの夢を叶えるにはお前の協力も必要だ。だけどな、お前が出来ねーなら俺が一人で日本一のピッチャーになってくるよ。絶対なってやるよ」
俺は堂々とした姿勢で叶汰の横を歩き去り、帰ろうとした。すると、
「なぁ陽介」
叶汰の透き通った声が聴こえてきて、俺は振り返った。
「やってやるよ。俺も日本一のキャッチャーになってやるよ。俺だってな、今までの人生、真結と野球にかけてきたんだよ」
叶汰はズケズケと俺の前まで歩いてきた。俺はそんな叶汰の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「じゃあ、この夢絶対叶えような」
「当たりめぇーだよ。すぐに叶えてやるからな」
俺らは2人で、雲一つ無い真っ青な空を見上げた。