葬式場からの帰り際、俺はあの神社の前で足を止めた。彼女とここへ来たのはほんの1週間前のことだ。苔の生えた絵馬の中には、まだ真新しい絵馬が2つ輝いていた。そういえば、真結さんは絵馬になんて書いたのだろう。俺は真結さんの絵馬を手に取った。亡くなる1週間前に書かれた絵馬だ。握力も弱まっていたのだろう。字はとても細く弱々しかった。
『一人のファンとして、陽介さんとお兄ちゃんが日本一のバッテリーになってるところを見たい!』
俺の手は震えていた。
「真結さんは…こんなことを…」
亡くなる1週間前とは思えないほど無邪気な願いは、涙が出るほど愛おしかった。
「え、陽介?」
ちょうど神社の前を通りかかった叶汰は、俺のことに気づいたようだ。
「叶汰…これ…」
俺は叶汰に絵馬を手渡した。
「これ…真結の…?」
「先週、真結さんとこの神社に来た時、絵馬を書いたんだ。その時はなんて書いたか教えてくれなかったけど、ちょっと気になって見てみたら…」
叶汰は真結さんの絵馬を見て、笑い出した。
「真結のやつ、『日本一のバッテリーになってるとこ見たい』って何だよ、その夢。死ぬ前最後の願いがこんなことなんて、そりゃないだろ…」
叶汰は笑っていた。それに反するように目から涙がこぼれ落ちていた。
「ほんとに、なんでこれが最期の夢なんだよ、ばかやろう…」
叶汰は絵馬をぎゅっと胸に抱いていた。