「あ、そういえば、俺、ピザとかチキンとか予約してたんだった。やべ、取りに行かなきゃ」
叶汰が突然、ガタンと音を立てて席を立った。
「え、お兄ちゃんそれ大丈夫?」
「まじでやばい。ちょっとダッシュで取りに行ってくるわ」
叶汰はドタバタと病室を出た。が、病室を出て5秒もしないうちに、
「あぶね、財布忘れた」
と病室に飛び帰って来た。
「もう忘れ物はない? 大丈夫?」
叶汰は我に返り、ポケットの中をまさぐると、
「スマホもない!!」
と目を丸くした。
「いやお前、何も持たずに買いに行こうとしてたのかよ」
「スマホも財布もある。もう大丈夫。行ってきまーす!」
叶汰は勢い余って滑りそうになりながら病室を出た。
「ちょっとやばいですね、うちのお兄ちゃん」
静かになった病室に、真結さんの可愛らしい声が響き渡る。
「あいつ、熱血なくせにちょっと抜けてるとこありますよね、昔っから」
「だけど、バイトのシフトは忘れたことがないんです」
「あー確かに部活に寝坊してくることもなかったな…けど忘れ物が多いんですよ」
「ほんとそう! いっつもさっきみたいに慌ただしく出て行くもんだから、絶対何かしら忘れてるんです」
「中学の時、あいつ真面目だから宿題ちゃんとやってるのに、毎回家に忘れて来てて。教科書も全部家に忘れたりしてたから、家に置き勉してるって言われてたんですよ」
「ほんとやばいですよね。お兄ちゃんの彼女とか、ほんと大変そう」
「え、あいつ彼女いるんですか」
「いないですよ~いるわけないじゃないですか。もしもお兄ちゃんに彼女がいたら、の話です」
「でも実際いたりするかもですよ。さらっとバイト先で彼女作ってたりして…」
「ないですよーないない」
「ですよね~」
俺らはしばらく叶汰の話で盛り上がっていた。